経済学はなぜ間違え続けるのか―マルクスもケインズも見逃した経済の2つの法則
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経済学はなぜ間違え続けるのか―マルクスもケインズも見逃した経済の2つの法則
木下 栄蔵

定価: ¥ 1,680
おすすめ度:

発売日: 2009-05
発売元: 徳間書店
大変独創的でおもしろいが、現代経済学の理論的批判としてはかなり厳しい。
本著は、初歩のマクロ経済学の「精神」や「背景」を理解する上では大変わかりやすく、主張は現実感覚に溢れており、理論的にも好奇心をそそる著作であると思います。例えば第1章のマクロ経済政策(財政支出VS財政再建・規制緩和)の正否を経済史を実証的な根拠として議論するところや、第2章のアダムスミスの「神の見えざる手」とマックス・ウェーバーの資本主義成立の倫理的条件の関係などは類書には見られないおもしろい導入です。そして、第3章は本著の核心部分ですが、不況時の経済主体の最適化問題(=債務最小化問題)が通常経済の最適化問題(=利潤最大化問題・効用最大化問題)に対して双対関係になっているという主張は大変独創的です。
しかし、第3章以降の理論的展開に関しては、経済学の初学者の人にとっては簡易的な分析として親切なのかもしれませんが、著書のいう「新しい理論の発見」と言うには、一般性の欠いた分析であり、本質的な問題点がいくつかあるのは否めません。
1.投資と債務の決定問題なら必然的にモデルの動学化と金融市場の分析が必要です。
2.ミクロ主体の最適化問題とマクロ分析が完全に別次元の分析になっています。
3.マクロ分析の45度線分析の横軸に供給量があるの間違いです、縦軸です。さらに、(セイ法則の働く)通常経済の議論を45度線の枠組み(=有効需要原理)で議論するのは無理があります。
4.上の3と同様バブル(=セイ法則下)の分析を、45度線で分析するのはやはり無理があります。また、どのような過程をへて縮小均衡に飛ぶのかについて説明が欲しいです。
5.国際貿易については、世界的な恐慌時は、保護貿易(鎖国)が良いと主張されています。各国間で需要の奪い合いになるのではないかという主張であれば説得力が増すと思います。ゆえにある程度の保護貿易にも効用があることは理解できます。しかしその際でも、輸入は消費者の効用最大化行動の結果ですので、それを強制的に国産品を買わせたとしても、消費者の効用が急激に下ががったり、そもそも国内に代替となる産業が発達していないかもしれません。また、さらに原材料を輸入している輸出産業の輸出も低下するかもしれません。
6.上記5つの問題点は置いておいたとしても、財政支出が有効需要に直結する(しかも乗数効果で)という議論は早計ではないでしょうか??現在、「バラマキ政策」がよく問題になっています。ただバラマクだけでは、それこそ本著の言う「債務最小化」または「予備的貯蓄(=セーフティネットとしての貯蓄)」の手段に繋がるかもしれません。実際これは「逆ケインズ効果(=巨額の財政赤字ゆえに財政発動が景気対策として無効になる)」として欧州で見られた現象です。このことをふまえると、東大の吉川教授の提唱するような「需要創造的イノベーション」を生み出す政策でなければバラマキと財政悪化に終わるのではないかと思います。
以上6つの各論的な問題点に加え、最も根本的な問題点は、本著が現代経済学の成果を全くふまえておらず現代経済学の批判にはなっていないという点です。本著が批判するマクロ経済学論争は70年代の議論です。確かに、債務最小化の議論は日本のバブル崩壊をふまえた大変独創的な論点ですが、それ以外の枠組みは少なくとも70年代にはほぼ既に発見され周知の事実と化していることであり、「著者が新しく発見した」という表現は不適切だと思います。そして、本著のモデル分析では、2つの原理を1つのモデル体系として止揚したというよりは、ミクロ分析とマクロ分析に全く連続性が無いので、新古典派総合と同様、2つの異なる次元の分析手法が妥協的に並列されている方に近いのではないでしょか??(ミクロ的双対問題を指摘した上で、統一的なモデルがないため、双対問題発見の意義がわかりずらい)。もし本著の主張が「現代経済学は、企業の最適化問題にバランスシートの調整の観点を導入するべきだ。ある条件では、それは利潤最大化問題と双対関係にある。」ならば、大変有意義で建設的な提起かもしれません。
また、本著のキーワードである「合成の誤謬」を真剣に問題にするなら異質な消費者や異質な生産者といった経済を想定し、本著でもエピローグでゲーム理論を議論しているように「戦略的相互依存関係」を一つのマクロ経済モデルで議論しなければなりません。そして、そういった試みはニューケインジアンの最先端の研究ではなされています。
一方、「合成の誤謬」とマルクスとの関係がもっと詳細に議論してもらいたかったです。それがされていたら、やはり独創的でかなり面白い議論ができたのではないかと思います。
以上、辛口に長々と批判を致しましたが、本著は全体としては斬新で面白いです。分析上問題のある箇所が多々あるものの、掘り下げていったら面白いのでは??という論点が掲示されていてgoodです。そして、本著は初級マクロ経済分析の枠組みで考えるなら興味深い内容であるし、何よりも現在の日本経済や世界経済の問題を考えるのに非常に簡単で扱いやすい指針を与えるものであると思います。将来より理論的に掘り下げて整備された議論が続編として出版されることを期待したいです。
通俗的なケインジアン経済論+論理的短絡
ちょっと期待して読んだのですが、期待はずれでした。「主問題経済vs双対問題経済」と経済の局面を対照をなす2つの局面に分けて考えるのは、理解できます。要するに経済成長局面と不況・恐慌局面では経済主体の行動選択の優先順位が異なっていることを指摘しているわけです。しかし、そこで展開されるのは、古典派、あるいは新古典派に対する過去の通俗的なケインジアン経済論の繰り返しに過ぎません。
自由貿易が経済全体の富を最大化する論拠であるリカードの比較優位・比較劣位の考え方は、経済成長局面では成り立つが、不況局面では成り立たなくなるという主張は、どう読んでも説明不足で、納得できませんでした。そこから導かれる政策的主張として不況時には関税を引き上げて保護主義(鎖国)に走ることが合理化されています。本気か?いや正気でしょうか?各国が保護主義に走れば、世界経済はますます萎縮する「合成の誤謬」に陥るだけでしょう。
最後に今回のバブルと金融危機は、金融工学がもたらした災いであり、金融工学の発展を可能にしたのはコンピューターであるから、金融危機の根本的な原因はコンピューターの父、ノイマンにあるという議論が展開するに至っては、トンデモ論ではないでしょうかね。
わかりやすい視点
現実の経済を真に理解し対応していくために必用な考え方を、わかり易く説明している好著。著者は、実社会との親和性の高いオペレーションズリサーチの専門家である。これまでの経済学を批判するのではなく、局面ごとに理論化されたものとして捉え全体像を説明する、いわばメタ経済学とも呼べる思想が満ち溢れている。平易な文章や具体的な歴史的事例を使いながら、概念としてはやや難しい理論を丁寧に説明しているので、一般の読者にも読みやすい。
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